2010年10月17日日曜日

『週刊東洋経済』2010年10月16日第6289号の特集「本当に強い大学2010」を読んで

週刊誌によっては、というかほとんどの週刊誌は週の始めに発売するものが多いので、週末に購入するんじゃ遅いんですが、私の場合、最近は本屋さんに行く目的が、『週刊金曜日』を買いに行くためなので、全国の情報通の方に比べれば、情報を仕入れるのが遅いのは、ご愛嬌です(まあ、速報性は他の方に譲るとして、一応自称文科系知識人のはしくれ(そうなりたいと思って勉強しています)としては話題として知っておかないと思いましていろいろ読みあさっています)。

『週刊東洋経済」では毎年「大学特集」を組んでいますが、「編集部から」によると11年目になるそうです。高校の教員としては知っておいて損はないので、他の雑誌などでも同様のタイトルのものは読んでおくように心がけています。

今回の特集は、さすがに経済誌なので、大学の経営環境に関する話題から始まっていますが、私としては48ページからの「ユニバーサル化で学力低下が深刻化 選抜機能を失った大学入試 高大接続テストは特効薬か」が、やはり気になります。

2010年度入試の大学進学率は過去最高の50.9%で前年度(50.2%)に引き続き50%を超えたそうで、この状況は、アメリカのマーティン・トロウが提唱した高等教育発展の最終段階である「ユニバーサル(普遍)化」なのだそうです。これは、少子化と大学の設置基準緩和による大学数の増加の結果なので、「高等教育発展の最終段階」といわれても、これを発展の結果とみなすのは、いささか?な感じなのですが、 とにかくいわゆる全入時代であるのは間違いないわけです。
そのような中で急速に拡大したのが、推薦・AO(アドミッション・オフィス)入試ですが、この傾向は現場の教員としては戸惑いを感じます。
特にAO入試はペーパー試験を必要とする一般入試とは違って、「学力不問」入試のところが多いですから、当然生徒はそちらを選択したがります。その上、AO入試は、早いところでは夏休み前からエントリーが開始され、夏休み中から試験があって、一番早い子は9月にはもう合格しているという状況ですから、生徒はそれ以降ほぼ勉強のやる気を失います。
他の生徒の立場からすれば、自分が必死に勉強している時にすでに「合格」している生徒がいれば、焦ってきますから、精神的に追い詰められる子も出てきます。そこで安心を求めて、希望を下げてでも推薦やAOに走るということが起こってくるのです。そうなると、クラス経営は大変です(まあ、これは私の勤務校の状況なので、他の学校は違うかもしれませんが、正直似たような状況なのではないでしょうか)。そのため、私はこの状況はあまり快く思っていません。
ただ、その反面、「推薦・AOだから大学に送れた」という生徒もいますので、特に3年生の担任の時には大変複雑な気持ちでした。「大学進学だけがすべてではない」のですが、明確な目標もなく、将来どうすれば良いのか決められない生徒に対しては、「大学へ行かないよりは行ったほうが良いだろう」という、これもまた複雑な心境で進めざるを得ないため、そのような生徒には、特にAOで受けさせる以外になかったりします(ただ、こういう生徒はエントリーシート一つとっても、きちんと書くことができないので、指導が大変ですが)。
ですから、大学関係者からの「学力不足の生徒が増えてきた」、「授業の内容が理解出来ない生徒が増えてきた」、「話が通じない」といった声には、正直「そりゃ、そうでしょうね」と納得してしまいます。

記事によると、AOは大学側でも「手間のかかる選抜方法で、その運用も難しい」そうで、筑波大学では09年度からAO入試を廃止したようです。ただ、筑波大学レベルのAO入試ならさすがに学力が極端に低い生徒というのは行かないでしょうし、現実そのようですが、見直しの風潮が広まっているというのは納得します。
ただ、記事にある山形大学工学部の「居住地訪問型AO入試」という事例は大変おもしろいと思います。私は現在1年生の担任ですが、もしこのまま3年生の担任まであがっていったら、誰か一人くらい、このAO入試を受けさせて山形大学工学部に入れてみたいなぁと思ったりします。

入学生の学力不足を解消するために、AO入学者に対して入学前教育を行ったり、初年次に導入教育に力をいれる大学が増えているようですが、入学前教育はもっとしっかりやって欲しいですね。9月くらいに決めてしまえば半年はほとんど勉強しないのですから、アホになるのも当然ですし、先程も書いたように、他の生徒に対する影響もありますから、とにかく勉強している状況が必要です。大学側も、入ってきてから苦労するよりは、半分高校教員に協力してもらう形で、AO入学者に対する入学前教育の指導を徹底しておいたほうが結果的にはプラスになるでしょう(中には難色を示す人間もいるかもしれませんが、私は積極的に協力しますよ。予備校講師をスカウトして指導させるより、高校教員と連携したほうがお互いのためだと思います。高校と大学をつなげるような、それ専用のカリキュラムを考えないといけませんが)。

もうひとつ、「高大接続テスト」のことですが、個人的はフランスのバカロレアやドイツのアビトゥアのようにするのが良いと思います。 大学入試センター試験に加えて高大接続テストを設けるとなると、今でこそやらなきゃならないことが多いのにさらに負担が増えるということで高校側が難色を示すのは無理ありません。センター試験と高大接続テストを一つにしたようなテストにすれば、高校側の負担増のイメージも薄まると思います。
とにかく、もっとよく検討しないといけません。それも大学の先生と高校の現場の教員が話をしていく形で検討していかないと、結局意味のないものになる可能性が高いと思います。上のほうだけで話を進めずに、現場の声をもっと拾っていって欲しいですね。

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