2012年7月22日日曜日

『ハーバード白熱日本史教室』

大変評判が良いようですね。

確かに、ある意味北川氏の講義は目新しいのかもしれません。
ただし、それはハーバードというアメリカの大学で、日本史などほとんど知らない優秀な学生に対しての講義だから、という気がするのです。

「男性ばかりの歴史、特にサムライの話に対して、女性が落ちていることに疑問を感じる」、この視点は大変素晴らしいです。ただ、それも北川氏が日本史をあまり学んで来なかったゆえ、改めて学んだ時にそれに気づけたのではないかと思います。

高校までに学ぶ日本史は、確かに男性中心の歴史ですから、日本の学生のとっても(最近の日本の学生でも日本史をきちんと学ばなくても大学に進学できてしまうので)、もしかすると北川氏の講義は受けるかもしれません。本書の評判が良いのもそういう理由もあるのでしょう。

ただ、女性のことが語られない日本史の不自然さに対する気づきは、日本の研究者の間では、かなり昔からあります。
ですから、「女性史」なる分野が存在するのです(正直言って、この言い方にはやや違和感を感じます。何故ならば、歴史は必ず男女の営みがあって成り立っているわけで、男女別に歴史が動くわけではないですから。ただ、今までの歴史が男性中心で語られていたために、「女性史」という言い方を使うのはやむを得ないことなのですが)。
ただ、女性史の分野は、もっぱら近現代史が多いので(そもそもは「母の歴史」からスタートしているので)、中世での女性のことを取り上げるというのは、北川氏の新しさですね。

タイトルが悪いのかも知れません。サンデル教授の白熱教室をもじっているのは明らかなので、それがあまり良い印象を持てない理由かも知れません。そうだとすると、これは編集者の責任でしょうから、北川氏が悪いわけではありません。

「ハーバード」で、「人気の先生」だから、ということで、このようなタイトルになったのだと思いますが、サンデル教授は哲学ですから、アメリカだろうと日本だろうと世界中どこでも同じレベルで考えることができる学問です。ですから、それがあれほど盛り上がったのは、やはりサンデル教授の講義が素晴らしいと、アメリカでも日本でも同じレベルで受け入れられたからです。

それに対して北川氏の日本史の講義は、始めに述べたように、アメリカでは明らかなハンデがあるわけです。
そのなかで、日本人の若い女性の先生が、目新しい講義をするのですから、学生にとっては興味深いことでしょう。もっとも、先程も書きましたが、日本でも日本史は高校で必修ではないので、日本史を学ばない学生は多くなっているはずですし、学んだとしてもいわゆる受験の日本史ではおもしろくないですから、北川氏の講義はおそらく受けが良いはずです。
本書を読むと、他にも北川氏による数々の工夫がありますので、そのあたりが総合的に評価されたのでしょうが。

逆に、本書の評判が良いということは、日本で日本史を研究している人間は、もっと頑張らないといけないということだと思います。
実際には特に女性史の研究者で、立派な業績を残している方は多いのですが、あまりメジャーな存在ではありませんね(たまたま私が、優秀な何人かの女性史研究者を知っているというだけなんですよね)。
「歴史の中の女性を語る」研究の成果を、もっと広めないといけないですね。

ここまでかなり批判的に書いてきましたが、実はかなり素晴らしい本だと思っています。大変勉強になりますし。
北川氏の、ちゃんとした研究書(日本語じゃないと読めないので、日本語で書かれたもの)を読んでみたいですね。

北川智子『ハーバード白熱日本史教室』 新潮新書469 2012年05月 ¥680円+税




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