国史跡の5世紀の古墳である岡山市の千足古墳の仕切り石である石障の表面に描かれていた直弧文装飾の劣化が激しくなり、保存のために搬出することになったという記事が、今日(6月18日)の日経新聞に出ていました。
キトラ古墳、高松塚古墳に続く石室装飾の搬出ですが、千足古墳は石室内に水が溜まっており、石障が水没していたため、そのままの状態で保存してあったわけですが、どうもそれが逆に石室の表面を痛める結果になってしまったようです。
基本的には、水中にあるものは状態が安定していると考えられるため、痛みが少ないとするのが一般的です。しかし、今回の件では、石室であることがポイントだったようです。キトラや高松塚も同様なのですが、石室の保存はかなり難しいのです。乾燥しすぎるとひび割れが起きたりしますからダメですし、今回の件から、水没状態も必ずしも良いわけではないということがわかりましたので、絶妙な状態に保たなければならないということなのです。
そもそも、きっちりと閉じられた状態の石室ならば、開けない限り環境の変化が起こりにくいので、内部の状態は比較的安定しているわけですが、一度開いてしまえば、急速に内部の環境は変化していくために、石室内の状態が大きく変化してしまうわけです。ですから、全てのものとは言わないまでも、やはりここ百年くらいの間に環境が変化してしまったものは、現地で保存するのは難しいのかも知れません。千年以上も前にすでに石室が開いている状態で残っているものは、開いている状態で安定してきたわけですから問題ないと考えることができると思うのですが、近代以降に開いたものに関しては、その時点から徐々に劣化が進んでいると考えておいた方が良いでしょう。
それでも、現地で保存できるものは極力保存し、厳しいと思われるものは躊躇なく搬出して保存すべきなのかもしれません。失われてしまえば元も子もないわけです。搬出して保存処理をし、戻せるならば戻す、今の科学では無理ならば、今後の科学の進歩に期待するしかないのではないでしょうか?何がなんでも現地保存としてしまうと、せっかくの人類の財産をみすみす失うことになってしまっては意味がありませんから。
判断が難しいですが、私としては文化財を失わないようにすることの方が、現地保存よりも優先すべきだと思います。
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