昨日2月20日のasashi.comに、「国宝の表面曇る 修復用の合成樹脂、数十年経て劣化」という記事が出ていました。
1940年代以降、接着剤などに使われる合成樹脂「ポリビニルアルコール」を使って、顔料がはがれるのを防ぐためにおこなった修復が、数十年経ち、表面に細かい傷が入り、すりガラスのように灰色がかって曇ってしまったり、硬くなって絵が反り返ったりする被害が出てしまっているようです。
東京文化財研究所が対策を研究しており、大阪市立工業研究所が開発した合成樹脂を分解する酵素に着目し、修復に応用するための技術開発を進めているということです。
保存科学は大変難しいのです。文化財は壊れる前に保存しないといけないワケですが、一度壊れ始めた文化財は、あっと言う間に完全に無くなってしまいます。ですから、時間との戦いになるわけで、保存処理方法の検討に時間をかけるワケにはいきません。
現代ではどのような結果を期待するかで、処理に使う薬品が変わってきます。
とにかく壊れないようにしておけば良いものならば、ガッチガチに固めてしまっても良いですが、例えば質感を重要視する場合ですと、それではだめですから、別の方法を考えるわけです。
また、とりあえず現代でのベストと思われる方法で保存しても、将来もっと良い方法が開発されたときには、その方法がとれるように、保存処理を可逆的にしておくということも考えます。
今回問題になった1940年代以降の保存も、当時の最先端の技術で行っているわけですが、ただし現在に比べて当時の技術は、とりあえず壊れないようにすることを第一に考えていたと思われますので、当時としては最先端の技術であった合成樹脂のポリビニルアルコールを使用したワケです。
ただ当時は今のように可逆・不可逆に対する意識が十分ではなかったので、やむを得ないわけですが、その方法に問題があるわけではなく、大阪市立工業研究所が開発した合成樹脂を分解する酵素の開発によってポリビニルアルコールでの処理をもとに戻せるわけですから、当時の判断は決して間違っていたわけではありませんし、実際ポリビニルアルコールでの処理を行っていたゆえに、綺麗に保存されている文化財も多いわけですから、保存科学的に見れば、OKなわけです。
なお、この問題が発覚後の文化財の修復は、昔ながらの、海藻を原料にしたフノリ、デンプン、ニカワが主に使われるようになっているとのことです。
保存科学の分野は、日々進歩していますが、文化財の崩壊も日々進んでしまいますので、関係分野での研究はとても重要だと思いますし、関係者は常に勉強しつづける必要があるのですが、この分野の予算は、どこも十分なものとは言えないのが現状です。
文化財は国民全体の財産です。貴重な文化財を未来に残すためにも、保存科学は大変重要な分野なのです。
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