本書の文庫版あとがきにもありますが、ちょうど2010年に宮本常一の代表作『忘れられた日本人』の英訳本が出版され、宮本常一の業績が初めて世界に紹介されました。たまたまそのことを何かで見て知っていたので、『忘れられた日本人』を読んだ者としては、宮本常一の足跡をたどるという本書もおもしろそうだと思ったわけです。
もうひとつ、宮本常一といえば、オリンパスのPENで写真を撮っていたということが有名です。十台以上のPENを使い潰して撮影された写真は、十万点にも及びます。そこまで徹底的にカメラを使い込んだ人間は宮本常一以外にはいないのではないかと思います。PENはハーフサイズカメラですから、その意味では「見るように撮る」宮本常一にはうってつけのカメラだったのでしょう。
宮本常一は、現在神奈川大学に入っている日本常民文化研究所の前進にあたる渋沢敬三のアチック・ミューゼアムに入り、全国を歩いたわけですが、本書はその宮本の足跡をたどったわけですから、本書自体の価値も大変重要なものだと思います。
また本書で注目されるのは、宮本ファンの官僚たちのインタビューや対談の部分です。その内容を受けて、著者の佐野眞一も書いていますが、「日本もまだ少しは希望がもてるかもしれない」と思わせられる発言が多いのです。
「たしかに、ここに出席した官僚たちは霞が関の「多数派」とはいえないだろう。しかし、たとえ「少数派」であろうと、霞が関の制度疲労をこれだけ正直に語る官僚たちが出てきたことは、やはり素直に評価すべきことではなかろうか。」と著者は書いていますが、本書の初版が出てから十年が経っていますが、残念ながら事態は改善されたとは言えません。今でもおそらく心意気のある官僚はいるはずですが、残念ながらやはり未だに「少数派」で、霞が関を変えることが出来ないのでしょう。
今改めて宮本常一の思想を振り返ると、特に離島振興に関する考え方などは、今こそ必要な考え方なのではないかと思うのです。
宮本常一の考えを「沖縄問題」に当てはめて考えてみると、今の沖縄にこそ、宮本的発想が大切なのではないかと思わざるをえません。
このタイミングで、本書が文庫化されたことの意義はとても大きいなものがあります。多くの方に読んで欲しい一冊です。
『宮本常一が見た日本』 佐野眞一著 ちくま文庫 2010年5月 950円+税
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