タイトル通り、確かに大蔵省・財務省の通史が書かれていますし、内容も決して悪くありません。
特に著者が述べている「増税は、財務省の伝統に反する」悪い政策であるとの主張には同感ですし、今の日本を救うためには「日銀の独立性を否定し、政治主導で財務省と再統合する。そして、迅速かつ強力な金融政策を打ち出す。細かい複雑な手続きはあるにしても、とにかく市場に流すお金の量を増やす。」という方法も、少し説明不足だとは思いますが、方向性としては良いかなぁと思います。その意味では、むしろオススメしたい本です。
ただ何が気になるのかというと、かなりはっきりとした人物評が一つです。否、別にそれ自体は人それぞれの判断なので良いのですが、新書であるゆえそれほどページ数を確保できないからなのか、その判断理由の裏付けが弱いのです。確かにそれほど突飛な人物評ではありません。人物によっては妥当かと思わされる点もあるのですが、やはりそう判断した根拠となった資料を明示してもらわないと、歴史の人間としてはなんとなく腑に落ちないのです。冒頭でハズレと言ったのはこのことです。
本書の全体を通じて、それぞれの主張の判断理由となった資料の注がほとんどないため、どうもスッキリしない読後感なのです。言葉は悪いですが、週刊誌を読んでいるようなイメージなのです。
新書だからやむを得ないと自分を納得させるしかないのですが、ちゃんと歴史の人間が書いているわけですから、できれば、しっかりと注を入れて、専門書的にしてくださると、大蔵省・財務省の歴史に関する本として、かなり基礎的なものになるのではないかと思いますし、もしそのような本ならば必ず読むと思います。
なんか、批判めいた文章に見えるでしょうが、初めに専門的な期待が強かったせいであり、決して本書を批判しているわけではありません。
むしろ、本書の主張である「増税は悪であり、日銀を財務省の下にもどして、お金を増刷するなどの金融政策を早急にとらなければならない」という考えを多くの方に知って欲しいという著者の気持ちはものすごく良くわかりますので、わかりやすくて手に取りやすい形である新書としての本書は、とにかく多くの方に読んでもらい、今後の日本について一緒に考えてもらうキッカケとなると良いと思います。
倉山満 『検証 財務省の近現代史 政治との闘い150年を読む』 光文社新書571 2012年3月初版 820円+税
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